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仙台高等裁判所 平成8年(ネ)191号 判決 1997年1月29日

仙台市<以下省略>

控訴人

(附帯被控訴人、以下「第一審原告」という。)

右訴訟代理人弁護士

吉岡和弘

東京都渋谷区<以下省略>

被控訴人

(附帯控訴人、以下「第一審被告」という。)

株式会社ハーベスト・フューチャーズ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

江藤洋一

主文

一  第一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告は第一審原告に対し、金三四四万六二八三円及びこれに対する平成六年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審被告の本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用(附帯控訴費用を除く。)は、第一、第二審ともこれを三分し、その二を第一審被告の負担とし、その余を第一審原告の負担とし、附帯控訴費用は第一審被告の負担とする。

四  この判決は、第一項1に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  本件控訴について

1  控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

(一) 第一審被告は第一審原告に対し、金七二四万三八〇五円及びこれに対する平成六年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告の負担とする。

(三) 仮執行宣言

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一) 第一審原告の本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

二  附帯控訴について

1  附帯控訴の趣旨

(一) 原判決中、第一審被告敗訴の部分を取り消す。

(二) 右部分にかかる第一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審原告の負担とする。

2  附帯控訴の趣旨に対する答弁

(一) 主文第二項と同旨

(二) 附帯控訴費用は第一審被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次の二を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決二枚目表一行目から八枚目裏五行目まで)と同旨であるから、これを引用する。

二  当審における当事者双方の主張

1  第一審原告

本件先物取引は、先物取引に素人である第一審原告が、第一審被告の従業員から、「私の営業生命をかける」、「もう注文した」、「止めるわけにはいかない」などと、商品取引所法で禁止される断定的利益判断の提供や虚偽事実を申し向けられて、本件先物取引に引き込まれ、さらにおかしいと気付いた第一審原告が取引からの離脱を求めたにもかかわらず、「両方利益がとれる」などとさらに違法な両建を行わせたうえ、その後も執拗に仕切拒否を行い続けた違法なものであり、過失相殺すべきでない。

2  第一審被告

(一) 第一審被告の従業員らの個々の勧誘行為には、違法性がない。

(二) 第一審原告は一五〇万円程度の損失を覚悟していたのであるから、第一審原告の積極損害は、委託証拠金のうち帳尻損金に充てられた五二四万三八〇五円から一五〇万円を控除した三七四万三八〇五円である。

(三) 第一審被告の従業員らの勧誘行為に違法性があったとしても、極めて軽微であり、八割五分の過失相殺がされるべきである。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  争点に対する判断は、次の二のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」(原判決八枚目裏七行目から一八枚目表終わりより三行目まで)と同旨であるから、これを引用する。

二1  原判決八枚目裏終わりより三行目の「一五、」の次に「一六、一九、」を、同終わりより二行目の「同D、」の次に「当審証人F、」をそれぞれ加える。

2  原判決一〇枚目裏六行目から九行目「理解したわけではなかった。」までを次のとおり改める。

「 なお、同月一〇日、第一審被告管理部顧客サービス課係長Fがa公害処理の事務室に第一審原告を訪ね、「営業に関する禁止事項」について説明した。その際、第一審原告は、「新規委託者の皆様へのアンケート」(乙八)に、商品先物取引委託のガイドについて、「ひととおり読んだので理解ができた」の項をマルを付したうえ署名し、右Fに交付しているが、右資料を読んで十分に理解していたわけではなかった。」

3  原判決一一枚目裏五行目の「原告は、同日、」次に、「取引を終了させる意思を固めて三五〇万円を準備して、」を加える。

4  原判決一三枚目裏終わりより三行目から一四枚目表七行目までを次のとおり改める。

「 商品取引所法、この趣旨に則り定められた商品取引所の定款、受託契約準則等の各規定が種々の法的規制等を加えているのは、このような商品先物取引の特殊性、危険性に鑑み、一般投資家の保護を図ることをも目的とするものであって、右各規定は、商品取引員ないし外務員が一般投資家から先物取引の委託を受けるに当たっての内部的な行為規範にとどまるものではなく、委託者に対する関係においても、勧誘や取引過程における注意義務を構成するものであり、商品取引員ないし外務員は、右各規定の趣旨、内容に則って顧客である一般投資家が商品先物取引について正しい認識と理解を持ち、自主的かつ自由な意思決定をもって取引を委託できるようにすべき注意義務を負い、商品取引員ないし外務員がこれらの規定に違反し、それが社会通念上商品取引における外交活動一般に許容される限度を超えるに至ったときは、当該勧誘や取引過程における一連の行為は全体として違法となり、不法行為を構成するというべきである。」

5  原判決一六枚目表二行目から同四行目までを、次のとおり改める。

「 右の諸事情に照らすと、本件先物取引の勧誘及び取引過程においてB、C、Dの行った行為は、商品先物取引の経験のない一般投資家である第一審原告に対してなすべき先物取引の危険性等についての十分な説明と情報提供義務を尽くさず、社会通念上許容される限度を超えて勧誘し、第一審原告の自主的な意思決定をまたずに取引を開始、継続させたものであり、その全体を通じて違法性を帯び、不法行為を構成するというべきである。」

6  原判決一六枚目裏一行目から同四行目までを次のとおり改める。

「 第一審原告が、本件先物取引にともない、第一審被告に対し、委託証拠金として合計六〇〇万円を預託したことは当事者間に争いがなく、右金額のうち第一審原告に返還された七五万六一九五円(右金額が第一審原告に返還されたことは当事者間に争いがない。)を控除した五二四万三八〇五円(帳尻損金額)が、第一審被告の従業員であるB、C、Dの本件先物取引の勧誘及び取引過程における不法行為によって、第一審原告に返還されないことになったものというべきであるから、右金額をもって損害と認めることができる。」

7  原判決一七枚目表末行から同一八枚目表四行目までを次のとおり改める。

「 前記のとおり、商品先物取引が投機性の高い極めて危険な商取引であり、大きな損害を被ることも少なくないことは公知の事実であるにもかかわらず、第一審原告は、Cから、商品先物取引の仕組みや投機性等を明示した受託契約準則、商品先物取引委託のガイド、商品先物取引委託のガイド別冊の交付を受け、これらを後で読むようにと言われていたのに、これらを熟読せず、万が一の場合には一五〇万円の損失を受けることもあると考えながら本件先物取引を開始し(第一審原告は商品先物取引の経験はなかったものの、第一審原告の年齢や第一審原告が会社の経営者であることに照らすと、第一審被告の外務員の勧誘を拒絶することが困難であったとは認めがたい。)、加えて、取引開始後、四七三万円の損失が計上されたことを知り、取引を終了させる意思を一旦固めながら、Dの言葉に引きずられて両建に応じ損害の拡大を招いたことに過失があり、その程度は相当大きいものといわざるをえず、本件に顕れた第一審原告及び第一審被告双方の諸事情を考慮すると第一審原告の過失として斟酌される割合は四割と認めるのが相当である。

なお、第一審原告は、本件のような場合には、過失相殺をすべきではない旨主張するが、第一審原告にも前記のような過失が認定できる以上、公平の観点から過失相殺を否定すべき理由はないから、第一審原告の右主張は採用することができない。

したがって、第一審被告が賠償すべき弁護士費用以外の損害額は三一四万六二八三円となる。」

8  原判決一八枚目表終わりより四行目の「二九二万一九〇二円」を「三四四万六二八三円」と各改める。

三  以上によると、第一審原告の本訴請求は、三四四万六二八三円及び不法行為の最終日である平成六年二月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、これと異なる原判決は相当でないから、第一審原告の控訴に基づき、原判決を変更して、第一審原告の請求を右の限度で認容し、その余の請求を棄却することとし、第一審被告の附帯控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、九二条、八九条を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 伊藤紘基 裁判官 杉山正己)

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